2017年09月06日

とある地方のとある大会参加者、そして。

そう遠くない過去、とある地方のコンテストに、そう若くない、いや割と年齢を重ねた人物が今年も参加した。
その彼は、以前から毎年行われているその大会に頻繁にエントリーしてはいるが、参加者の獲得基準であろう「決勝進出」を一度も果たせないでいる。

彼は、出場しては乗り越えられないその壁に、その都度「自分のふがいなさ」を理由に傷をなめるのであった。

彼は、今年も参加した。昨年は審査のうえではあと決勝進出まで一歩であったが、その審査に納得できず、もう参加することを止めようと思ったにもかかわらず、なぜだかまた参加しているのである。
傷が癒えて屈辱も忘れたのか、ともとれるが、おそらくは違う目標のための試金石程度に考え、あまり期待はせずにエントリーしたのかもしれない。

彼は、そのとある大会の前に、全国的な規模の大会に参加している。といってもカテゴリー付ではあるのだが。
彼は、とある大会の前の大会に向けて厳しい自己管理を行い、カテゴリーにはまるべく涙ぐましい努力をしていた。
ヘトヘトになりながら、その前日を迎えた彼は、鏡に映る自分の姿になぜか驚いた。
「見たことない、いい状態だ」
彼は、割と経験はあるものの、その審美眼にいささか問題があるのだろう。(だから今の現状であるのだが)その目でそう自分をとらえてしまった。

過酷な制限が正しい判断をできなくしているとも言えるし、元々、自分は正当に評価されればこの状況に甘んじているはずはないという、いささか痛い思考がそうバイアスをかけたのかもしれない。
自分に自信を持ってしまったのである。そのせいで彼は、なかなか寝ることもできない妄想に取りつかれて、当日朝を迎えることとなったのである。

当日会場入りしても、その自己評価は変わらず、ある種のファンタジーの主役のまま本番を迎えた。
そのファンタジーはものの数分で現実に置き換わり、入賞ではない10位という評価に苦しむ結果を得たのであった。
ファンタジーの大きさと現実のギャップで壊れそうになるところを、盟友に助けてもらわなければ、人として立ち直ることもできなかったであろう。
それもどうかと思うが・・・。

彼にも向上心も次への課題克服への意欲は少しはあるので、落ち着いてから、その現場を見ていた人達に評価を聞いて回った。
その答えが、あまりに基本的な事に驚くとともに、とある大会へ克服する術を見いだせないかもしれないと思った。
そんな前段がある中、彼はその大会当日を迎えたのである。

その大会は、偉大な先輩方が盛り上げ、切磋琢磨してきた場でもある。
偉大な先輩方は、当然優勝して次のステージへ登っていくので、当然席は空いていく。
ニューカマーもいるにはいるが、彼はその勢力図に興味もないため、自分と比較することをしなかった。
空席率が目立つ。これが出場者表を見た彼の感想。
昨年の雪辱を果たせるかもしれないと考えるのは彼の思考回路からすると当然だろう。

課題は克服したかもしれないし、できていないかもしれない。しかし、その大会の前日まで調整してきた自分はその前の自分と遜色ない、いやむしろ良くなっているのではないか、と勝手な解釈に堕ちていくのである。
またぞろ入賞どころか、その先に立つ自分。まさにファンタジー再び。

準備は万端。いざ勝負へ。
彼は、ステージ脇で感じた自分へのわずかな不安をしまって、舞台に立った。
ステージでは、自分は良いんだという自己暗示にかかっているので、他の選手の良さも見えていない。

結局、他の選手との比較の場に呼ばれなかった。
当然、ファンタジーな彼は、比較の必要もない選手だと認識されたと解釈した。
〜蛇足ながら申し上げると、この種の大会の場合、最初の比較の場では上位すぎて、もしくは下位すぎて呼ばれないということは必ず起こるのである〜

同点審査もあるので、気を抜かないようにという指示が飛ぶ。その通りだ。皆がんばれよ。
他人事のように聞き流している彼。

同点審査に彼は呼ばれた。
その時点で、2度目のファンタジー崩壊が始まった。そして厳しい現実の場へ引きずり出されるのである。
状況としては、手段があるだけ前よりマシな状況なのかもしれないが、奈落の底へ突き落とされた感とはまさに表現どおりということを理解した人間には、短期間にポジティブシンキングできる訳がない。
彼は、その時点で廃人と化していたである。

そそくさと会場を後にし、澄ました顔で久しぶりのマックシェイクを飲みながら、心に空いたえらい大きな空洞をどう埋めようか悩んでいた。

あまり思いつくこともなく、なぜかジムに向かうのである。
自分の偽らざる拠り所。心の安定を図る場所。彼にとってそういう場所だったのか。

結局のところ、昨年と同様、形の上ではあと一歩であった。
しかし、意味するところは異なる。彼はもう入賞すらできないのだと考えた。
悪くなかったとしても、カッコよかったとしても、入賞すらできなかった現実は消えることは無い。
小手先の改善を図る、少しずつ良くしていくことが、大切なのは理解しているが、彼はすでに若くないのである。実績ある者が再起を図るなら何歳でもやり遂げられるだろうが。

失意と無力感は、人間から意欲を奪う。
彼は、崖っぷちに立っている。少なくともそう感じている。まだ崖っぷちなのが不思議なくらいだ。

彼は、その資質の欠如が明らかとなったカラダとまだ向き合うことを、捨てては無いようだ。
どこからそのゾンビのようなバイタリティが生まれるのか理解し難いが、次の大会に向けて、できる努力をするようだ。遠出も出費も辞さないようである。

彼にはきっと独特の美意識があるのだろう。
美意識は誰も見ていないところでもその人間を規定するから。
憂鬱を抱えながら、なお美意識によって前に進もうとする彼は、本当に不思議な人間である。


posted by まつちよ at 00:43| Comment(0) | ファンタジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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